マンガアシスタントについてのブログ

カクイシシュンスケのブログ。マンガ家のアシスタントという仕事について主に書いていきます。

そもそもなぜアシスタントは低賃金・長時間労働なのか

マンガ家のアシスタントは大抵の場合、低賃金で長時間労働です。

マンガ業界に身を置いてない人でもネット上のマンガ家アシスタント募集掲示板を見れば、その一端が垣間見えるかと思います。誰でも見られます。

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だいたい一日10~12時間労働で時給1000円というのが募集掲示板から見てとれるおおまかな相場と言って良いのではないでしょうか。残業代・深夜手当について明記されてる求人はほとんどありません。また、「経験者優遇」と書かれてることも多いですが、何をどう優遇するか明記されてる求人は見たことがありません。

マンガの絵を描くというのは何の技術も持たない人がすぐに描けるようになるようなものではありません。絵の素養がある人がそもそも少ない上に、実際にモノになる人はもっと少ないでしょう。貴重な技術を持ったアシスタントの給与相場が時給1000円というのはあまりにも安すぎます。東京都の最低賃金は2018年1月現在、時間額958円です。

ではなぜ低賃金なのかと言えば、それは使用者(雇用主)であるマンガ家の収入が少ないことに一つの原因があるでしょう。

マンガ家の収入は原稿料と単行本の印税が主で、原稿料はアシスタントの人件費に消えて印税でカバーするなどとよく言われます。

この原稿料がとにかく安いのです。

私は2004年、2007年に週刊少年ジャンプの増刊号にあたるマンガ誌に読み切りが掲載されたことがありました。その時の原稿料は1ページ1万円に満たない額でした。現在、ヤングアニマル嵐という青年マンガ誌で連載をしていますが、その原稿料もジャンプ増刊と同じ額です。おそらく少年誌・青年誌の原稿料の最低ランクはその額に設定されているのだろうと思っています(もっと安い少年誌・青年誌がないとは言い切れませんが…)。

1ページ1万円に満たないということは月に20数ページ~30ページ描く連載でも源泉徴収を差し引けば月収30万どころか25万円ちょいといったところです。その月のページ数によってばらつきはありますが、印税を除いた原稿料だけなら月収20万円台ということになります。

一方でマンガを描くというのは非常に手間がかかるものです。少しこだわりを強くしようと思えばどんどん作画時間は増えていきます。しかしその作画を部分的にアシスタントにお願いする場合、この少ない月収の中から支払わねばならないわけです。

隔週ペース、週刊ペースとなればページ数は月刊よりも増えるわけですが、収入が増えるかわりに、制作ペースが早まる分、自ずとアシスタントを雇う人数、日数は増やさなくてはいけなくなります。

マンガ家の原稿料はマンガの絵に対する対価と物語(脚本)に対する対価という「報酬」という側面だけでなくアシスタントの人件費を含めた「制作予算」でもあるはずです。にもかかわらず報酬+制作予算としてあまりにも低すぎる金額と言わざるを得ません。月刊、隔週、週刊、いずれも何の実績もない新人の原稿料は一万円に満たない額だとすれば(少女誌やネット媒体はもっと少ないと聞きますが実際の額は私は知りません)、その額はアシスタントの人件費も含めた金額としては設定されていないわけです。

その少ない原稿料からアシスタントの労働条件を無理やり導き出したのが一日10~12時間労働、時給1000円という相場なのだろうと思っています。

しかし収入が少ないからと言って労働基準法を無視し、従業員であるアシスタントの労働条件を厳しくしていいのでしょうか。元手が少ないんだから仕方ないなどと正当化できるものではないはずです。元手が少ないなら少ない範囲で制作するのが本来の筋でしょう。

私は原稿料を決めている出版社の責任が最も重いのは当然として、マンガ家たちにも同様に責任があると思っています。

ネット上などでイラストレーターの方が絵についてよく知らない依頼主にあまりに低いギャラを提示されて憤慨したという話を目にすることがありますが、私は絵についてプロであるマンガ家たちもアシスタントに対して同じことをしていると考えています。経験者優遇と求人に書いているマンガ家は一定以上の技術を持つベテランアシスタントにはいくら払う用意があるのでしょうか。時給1000円と明記されてるところからいくらアップするつもりなのでしょうか。時給1100円でしょうか。1200円でしょうか。仮に時給1200円であっても8時間以降の時給が残業代として割増にならないのであれば、1日10時間、月20日働いても24万円です。アシスタントが慢性的な人手不足である理由がよく分かります。誰だってこんな条件でこき使われるのはいやに決まっています。

絵を描く技術を安く買い叩いてるのはマンガ家自身だと私は思っています。

ではどうしろというのか、労働基準法を守ってアシスタントの労働条件をアップさせたらマンガの絵の密度、完成度は下がるじゃないか、絵の質を下げるわけにはいかないんだと反論したくなる方もいるかもしれません。

私はそれで質が下がるなら下がればいいし、マンガ業界が立ち行かなくなるなら立ち行かなくなればいいと思っています。とっとと潰れろ、と。

労働基準法を守った上で、また、制作に携わる人にまっとうな報酬を支払った上でできあがってきたものが日本のマンガ業界の本来の実力なのではないでしょうか。ドーピングして記録を出したアスリートに私は拍手できません。今の日本のマンガ業界は自分たちが違法なドーピングしてる意識もなく、こんなに私たちはマンガに魂込めてる、頑張ってると大きな勘違いしているのだと思います。

作品が完成するまでアシスタントとともに寝ないで描くというのはもうやめにすべきです。制作予算が少ないなら、その範囲内で完成させる、それでは全く時間も予算も足りないというのであれば報酬+制作予算である原稿料を大幅にアップさせるという当たり前のことをするべきではないでしょうか。

マンガを好きで読んでいる読者の方々には、アシスタントを雇って描かれたマンガはほぼ10割、マンガ家によるブラックな雇用のもと制作されているということを覚えておいていただきたいと思います。